人工呼吸器の普及で脳死が認識されたように、自発呼吸能力が廃絶したことの確認、無呼吸テストは「脳死判定の骨格」と言われる最も重要なテストです。息をこらえると、血液に溶け込んでいる酸素が減り二酸化炭素が増えてくる。この状態を呼吸中枢が感知して息を吸い込む動作が起こる。この原理から無呼吸テストは、低酸素と高炭酸ガスの両方の状態を作って、自発的呼吸が出現しないか確かめる必要があります。ところが、脳死判定基準における無呼吸テストは、酸素を投与しつつ人工呼吸器を止める。高炭酸ガス刺激だけ加えているが、低酸素刺激は行っていません。
また、どれだけの炭酸ガス刺激を加えても反応がなかったら「自発呼吸がない」と判断してよいかの科学的根拠もありません。重大な資料を紹介します。カナダの脳死判定基準で脳死とされ、アメリカに臓器提供しようとして、アメリカの脳死判定基準で判定したら息をしたために、家族が臓器提供の同意を撤回したケースです。*Simon D.Levin(McMaster University Medical Center):Brain death sansfrontiers、The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE、318(13)、852−853、1988
37週で出生した2530グラムの女児が、生後41時間後にカナダの脳死判定基準を満たした。動脈血二酸化炭素分圧を54mmHgまで上昇させて、自発呼吸がなかった。米国の移植組織により 心臓の利用が検討され、60時間後に米国の脳死判定基準(無呼吸テスト時に動脈血二酸化炭素分圧を60mmHgまで上昇させる)にもとづいてテストされた。この女児は動脈血二酸化炭素分圧が59mmHgまでは無呼吸だったが、その後64mmHgに上昇するまでsteadilyな(しっかりとした)呼吸をした。臓器提供の同意は、両親により撤回された。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この資料について解説します。米国、カナダ、英国の脳死判定基準は、無呼吸テストで自発呼吸がないことを確認する動脈血二酸化炭素分圧レベルが異なります。英国は50mmHg、カナダは50mmHgから55mmHg、米国は60mmHgです。このような微妙な炭酸ガス刺激の強度の違いで自発呼吸をする、脳死ではないことがわかるケースがあります。死亡宣告をされたり、されなかったり、臓器摘出をされたり生体解剖として臓器提供は拒否されるケースがあります。では我が国の脳死判定基準を満たした状態は、まったく本当の脳死なのでしょうか?
厚労省基準は、動脈血に溶け込んでいる炭酸ガスの圧力(二酸化炭素分圧)が60mmHg以上になったら無呼吸テストを終了してよいとしていますが、その閾値と設定された60mmHgを越えてから、呼吸をした患者が多数報告されています。値の低いほうから8例を並べると以下のとおりです。
1〜2例目:日本大学付属病院では2例、64.7mmHgと72.2mmHgで自発呼吸をした(脳蘇生治療と脳死判定の再検討、p97)
3例目:帝京大学医学部附属市原病院では59歳女性が66.4mmHgで自発呼吸をした(日本救急医学会関東地方会雑誌8巻2号p524〜525)
4例目:京都大学付属病院では86mmHgで自発呼吸をした(麻酔37巻10号臨増S66)
5例目:米国ワシントンDCのChildren's National Medical Centerでは、3歳男児が91mmHgで呼吸。同日2回目の無呼吸テストでは71mmHgで呼吸をし、その後数日間は人工呼吸の設定を超えて規則的な自発呼吸を始めた。現在、患児は気管切開と胃ろう造設がなされ慢性病棟で介護されている(Critical care medicine26巻11号p1917−p1919)
6例目:日本医科大学付属病院では、54歳女性がPCO2(肺胞内二酸化炭素分圧)が100mmHgを超えてから自発呼吸をした(人工呼吸器装着時の連続測定でPCO2の最高値は、PaCo2よりも1〜5mmHg低いとされる)(救急医学12巻9号S484)
7例目:米国ニュージャージー州のCooper Hospitalでは、髄膜炎の3歳女児は、第2病日に自発呼吸のあったことを除いて脳死判定基準を満たした。無呼吸テスト開始から8分45秒後に息を1回吸った。その時の血液ガス分析結果はpH6.94、PaCO2は112mmHgだった(Journal of child neurology10巻3号p245−p246)
8例目:公立昭和病院では、36歳男性が呼吸刺激薬ドキサプラムを併用した無呼吸テストで119.6mmHgで自発呼吸をした(脳死・脳蘇生研究会誌10巻p64−p66)
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無呼吸テストを長くし過ぎて動脈血二酸化炭素分圧を80mmHg以上とか上げると、血液が酸性に傾き過ぎる。pH7.2くらいになると、血液中のヘモグロビンから酸素が切り離されにくくなって患者の負担が大きくなりすぎて本当の脳死作成法になるから、これ以上無呼吸テストを長くするわけにもいかない(上記の報告は長くしすぎています。医師が患者を傷つけている)。となると、脳死判定の最重要テストとされる無呼吸テストは、ある程度のところで止めなければならない。これは自発呼吸能力の廃絶を証明できないこととイコールです。
さらに、いったんは無呼吸とされて脳死判定されながら、大阪大学付属病院(日本救急医学会雑誌2巻4号p744〜p745、1991年・Pediatrics96巻3号p518〜p520、1995年) http://www6.plala.or.jp/brainx/recovery0.htm#40d-respiration-3m では40日後に自発呼吸が復活した。
公立高畠病院(日本小児科学会雑誌99巻9号p1672−p1680、1995年)http://www6.plala.or.jp/brainx/recovery15.htm#126d-eeg-11y では9ヵ月以上経過後に自発呼吸が復活しています。
この大阪大学付属病院、公立高畠病院の脳死からの復活例は、昔のことですから現行の脳死判定基準とは細部が異なりますが、「一時的に脳死判定基準を満たした後に回復してくる患者を、区別できない恐れがある」ことは十分に指摘できるでしょう。